狂炎ソナタは悲劇だったのだろうか①


狂炎ソナタ開幕からから今日で1年です。

11月15日から25日まで日本で約2週間行った後、5月に韓国でも再演しました。この舞台は本っっつ当に素晴らしい作品で、開演から1年経った今も私の心をぎゅっと掴んで離さないのです。(この文章を書きながら泣いている)1年経った今もJのことを思い出し「Jの生きた人生はとても美しいものだったよ」と言いながらぎゅっと抱きしめたくなります。「死」を取り扱っている作品ですが、とても美しい作品だと私は感じています。

 


そして、自分が狂炎ソナタについてブログに書こうと思った理由。この舞台を見終わったあとに生じた疑問「狂炎ソナタに出てくるJは不幸だったのだろうか。そもそもこの話は悲劇だったのだろうか?」について、つらつらと書いてみようかなと思ったからです。なるべく作品を見たことない人にも分かりやすいように書けたらいいなと思っています。

 


・そもそも、「狂炎ソナタ」とは?

まず、この話をする上で必要なのが「狂炎ソナタ」ってどんな話?ってことだと思います。

この話を簡単に説明すると、

「天才作曲家Jが殺人の結果得た楽想(モチーフ)を元に楽曲を作りあげていく。しかし、それと引き換えに、自身に取り憑いてしまった悪魔を殺すまでの1年間の記録」の話です。

 

この記事では狂炎ソナタのあらすじについて書いてみようと思います。長いですがどうかお付き合い下さい。

 


登場人物

J

この話の主軸となる人物。リョウクが演じているキャラクターでもある。若くして音楽の名誉ある賞「グロリア・アルティス勲章」を受賞。その後、Kに師事する。

S

天才。Jの10年来の友人。かつJにとって唯一の友人でもある。Sの両親が事故で亡くなった際、Jに音楽で救ってもらった。音楽は楽しむものだ。という一貫した考えがある。

K

表向きはクラシック界の有名作曲家。しかし、今まで1度も自分の実力で楽曲を作ったことがない。グロリア・アルティス勲章を受賞したJを自分の功績のために利用しようとする。

 


この話は回想シーンとJの生きた1年間の話が交互に繰り返されながら展開されていきます。

賞を受賞してからJが生きていた期間は、1978年4月から1979年2月までで、回想シーンはJが受賞した翌年のグロリア・アルティス勲章の時期に当たる1979年の4月。この時には既にJは死んでいて、残されたSとKがJの遺物である手記を読みながら過去を振り返り対話をしています。

 


Jの生きた1年間について分かりやすくまとめると下記の通りとなり、激動の1年だったことがよく分かります。(手書きかつ汚いですが)

 

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写真を見るとわかるのですが、Jは4月に賞を受賞していますが、Kの元へやってくるのは10月になってから。実際に舞台で触れている部分もその5ヶ月間です。彼が苦しんだのは、とても短く濃い時間であったことが窺えます。

「狂炎ソナタ」は、Jが悪魔を殺すまでの記録の話ではあるものの、Jがソナタを作り上げていく話でもあります。そのため、それぞれのソナタの完成日だけを抜粋。()内はそれぞれの楽曲にJが付けた名前。

第一楽章(没作):10月27日

第一楽章(モルモランド):10月28日

第二楽章(レリジオーソ):10月29日 4:41

第三楽章(不明):12月3日

第四楽章(アモローソ):2月10日

第五楽章(ベクレムト):2月17日(同時にJも没)

※第一楽章の没作(死の瞳)は、Jが自らの努力によって作り上げた楽曲でしたが、K氏の批判にあい結果的に没作となります。

※第一楽章と第二楽章を作るまでの間が1日しかないのは、車で轢いて殺した男を森に隠した次の日に、様子を確認しに行ったら、なんとまだ生きていたためそのまま絞殺した。という経緯があります。

 


【あらすじを兼ねつつ、Jが悪魔に染められていくまで】

 


その前に、Jに取り憑く「悪魔」とはなにか。

狂炎ソナタの中に現れる悪魔とは、「楽曲のためならば'死'を犠牲にすることを恐れない」ことと定義します。

また、悪魔とは取り憑いたはじめからJを苦しめるものではなく、徐々に彼自身を侵食していったのだ。ということを補足しておきます。

 


Jに悪魔が取り憑いたのは、男を車で轢き第一楽章の楽想が浮かんできたその日(10/28)だと思います。

この時のJには「殺人はいけないこと」と分かっていながらも「何かを犠牲にしなければ何も得られない」という感情に支配され、Jは最終的に「ごめんなさい!」と絶叫に近い声を上げ男を絞殺します。そして第二楽章を作成。

第二楽章以降、楽曲が作れないJ。Kも演奏会に必要な楽曲の締切が近づき焦りが募ります。その時、Jの手記を見つけたKは恐る恐る中身を捲っていきます。すると、以前制作した2曲が「殺人」によって制作された楽曲だと知り驚きます。しかし、Kは「殺人」を利用すればJがまた楽曲を作ることが出来ると気がついてしまうのです。そしてJに近づき「作曲家にとって、曲を書けないこと以上の罪はない」とささやくのです。

Jには殺人をして楽曲を作り上げることは、いけないことという倫理観があり、かつ自分の努力で楽曲を作るべきだ。と思っていたと思うのですが、偉大なるKにそれを肯定されてしまった。そこでJの心が一度死んでしまいます。そこで舞台は1度暗転。(このタイミングで第三楽章が作成される。タイトルは'The Murder')

 


次の幕からは完全に悪魔に取り憑かれてしまったJの姿が現れる。殺人を肯定され心が死んでしまったJは、毎晩のように殺人を犯すのですが、一向に楽想は浮かばない。

Jのセリフ「毎晩彼らが僕の元を訪ねてきます。笑って…泣いて…。でも…もう何も言ってくれない。なぜです?なぜ何も言わないのです!」

そして、ナイフでKを威嚇するのですが、その時またもやKがJに「もっと君を刺激する"死"を探すのだ」と助言をします。

 


すると、その時タイミングよくJの唯一の友人、Sから電話がかかります。そしてJは受話器を手に取り「僕…僕だよ。今からちょっと会えるかい?」と話をする

この時のJはかなり追い詰められていて、電話後Sに会った際に「最後に」とか「もう戻れないんだ」と発言していて、悪魔に取り憑かれてしまった彼自身がもう後に戻れなくなっていることを自覚していたことがとてもよくわかります。

そして、JはSに対して「君にインスピレーションをもたらす曲」を弾いて欲しいとお願いをします。そこで、Sが演奏する楽曲は「色あせないように」この曲はJがこの舞台中で"唯一"作曲をした曲です。この曲については後述しますが、かなりキーとなる曲です。

"音楽にはインスピレーションが必要だ"と感じているJと"音楽は楽しむものだ"と信じ疑わないSとで意見の食い違いが起こり、Jは衝動的にSをナイフで刺してしまいます。結果的には未遂で済みましたが、Jの元へは第四楽章の楽想がやってきます。

唯一の友人であったSでさえも、音楽インスピレーションとして昇華しようとしてしまう自身に絶望するJ。Jは自分がこの先も生きていたら、それ以上の犠牲が生まれてしまうことを感じとり、自身を殺すことで自分に取り憑いた"悪魔"を殺そうと決心します。そして自死し生まれた最後の楽曲が、第五楽章「狂炎ソナタ」です。

 

以上ここまでが狂炎ソナタの簡単なあらすじとなります。